モエレ山について

イサム・ノグチはモエレ山を可視化した。
地図を、現地を書き換えた。
あの山はここがmoyre と名付けられた頃には見えなかった。
地図には存在しない類推の、形而上の、不確定な山だった。
透明な山も現地には存在していて、明確に誰かのテリトリーだった。
いつだって純粋な地図が必要だ。
さもなくば、木木も岬も見えないままだ。
誰かが海に出てそれを呼ぶまで私たちは岬を知らなかった。
鳥は先天的な方向感覚で魔術的な道を知るという。
夕暮れ時にモエレ山の頂上からガラスのピラミッドの方を眺めると、
無名の鳥たちが山頂、峰、峰をかすめて沼へと向かう。
回廊を、庭をめぐるように標識をたどる。
野生の地図にこの山は記述されているだろうか。
一枚で複数に読まれうる地図があることを想像する。
自然のプランはいつだってはかなく不変かつ抽象的な具体物なのだから、
あたらしい地図はすこし曖昧なくらいが呼吸するように美しい。


2013, Text